BWAピッチコンテスト2025:女性起業家が切り拓く未来
ISSUE 11|インクルージョンなくして日本の成長なし
東京で開催された「BWAピッチコンテスト2025」では、防災教育から着物シェアリングまで、多様なアイデアを携えた6人の女性起業家が登壇しました。本大会は、女性の挑戦を社会に可視化する一方で、日本のスタートアップ経済が抱える構造的課題をも浮き彫りにしました。
📌 ハイライト
4回目を迎えた「BWAピッチコンテスト2025」には、過去最多となる160件の応募が集まった。
ファイナリスト6名は、防災教育、ビーガンレザー、着物シェアリングなど多様な事業を発表した。
大桃綾子氏の「Dialogue for Everyone」がプロフェッショナル賞を受賞。50代のキャリアを「衰退」ではなく「再生」として再定義した。
日本のスタートアップ・エコシステムにおける女性比率は依然として低い。東京大学の女子学生はわずか2割に過ぎず、VC資金も女性起業家にはごく一部しか流れていない。
高齢化が進む社会において、インクルージョンは「公平性」にとどまらず「経済的必然」であることが浮き彫りになった。
✨ 過去最多の応募、女性たちの挑戦
2025年7月11日、東京ミッドタウン八重洲で「BWAピッチコンテスト」が開催されました。主催はフィガロジャパンで、今年で4回目を迎えます。過去最多となる160件の応募の中から6名のファイナリストが選ばれ、日本の女性起業家の創意工夫と、依然として存在する構造的な障壁の両方が浮き彫りになりました。
今年のテーマは「想いを言葉に」です。ファイナリストたちはそれぞれ5分間の持ち時間で、防災教育プログラム、ペットのデジタルモニタリング、サステナブルなビーガンレザー、着物シェアリングプラットフォームなど、多彩なプロジェクトを発表しました。授与されたのはドリーム賞、プロフェッショナル賞、オーディエンス賞の3つですが、それ以上に重要なのは、女性起業家の存在感が依然として希薄なスタートアップ業界において、彼女たちの挑戦が社会に可視化されたことでした。
審査員には、SIIFIC 取締役・社会変革推進財団 常務理事の工藤七子氏も名を連ねました。ジャーナリストや業界リーダーと並んで参加した彼女の存在は、この舞台の持つ重みをいっそう際立たせていました。
👩💼 6人6様の挑戦が映す日本の可能性
水野裕子氏(ドリームアワード) 消防士としての専門知識を活かし、地域に根ざした防災教育を推進しています。
西崎実穂氏(PawsRelief) 研究者として、ペットの健康を見守るデジタルモニタリング技術を開発しています。
上仮屋遥氏(MIMSAPORT)(オーディエンスアワード) 病気や障害を持つ人々の外出を支援する取り組みを展開しています。
爪長季美氏(EUMIS Inc.) 農業廃棄物を活用し、100%ビーガンレザー製のファッション製品を手がけています。
大桃綾子氏(Dialogue for Everyone)(プロフェッショナルアワード) 50代のオフィスワーカーにインターンシップの機会を提供し、キャリア転換を支援するとともに労働力不足の解消に取り組んでいます。
リヴィア清水夏子氏(Craftsmanship Inc.) 着物のシェアリングサービスを通じて職人技を守り、伝統衣装をより身近な存在にしています。
🌍 広がる意義
数ある印象的なピッチの中でも、最も深く心に残ったのは、プロフェッショナル賞を受賞した大桃綾子氏の「Dialogue for Everyone」でした。この取り組みは、50代のオフィスワーカーと地域企業をつなぎ、学び直しの機会を提供するとともに、人材を労働力不足に直面する産業へと再配置する仕組みを実現しています。
中高年が新たな役割を担い、社会に再び貢献できる道を拓くことで、人的資本の強化とインクルージョンを推進している点に、私は強い共感を覚えました。特に、日本が直面する高齢化と労働市場の年齢差別を踏まえると、その意義は大きいと感じます。
このモデルは、キャリア後半期を「衰退」ではなく「新たな機会」として再定義しています。労働力不足の緩和に資するだけでなく、長期的には医療費や社会保障費の負担軽減にもつながる可能性があり、定年が65歳前後の日本社会に新しい視点をもたらしています。
人的資本の強化を「雇用のマッチング」によって実現するという発想は、日本だけでなくグローバルにも通用します。少子高齢化に直面する国々に限らず、AIによる急速な労働構造の変化や、機会格差が根強く残る社会においても有効です。
米国では、学区ごとの固定資産税に依存する教育財源の仕組みが教育機会を地域に縛りつけ、人種・ジェンダー・社会経済的地位による格差を固定化しています。この制度は、歴史的に周縁化されてきたグループの社会的流動性を阻む一方で、富裕層の機会を持続させる構造を温存しています。大桃氏のような取り組みは、キャリアの流動性を生涯にわたるものと捉え直すことで、こうした不平等の循環を断ち切る新たな道筋を示しているといえます。
また、高等教育へのアクセスに目を向けたとき、日本で最も衝撃的だったのは、東京大学の学生のうち女性がわずか20%にとどまるという現実です。背景には、性別役割期待、学生寮の安全性への懸念、再受験率の差、入試結果の不正、職業訓練制度の選択肢、さらには社会階層といった要因が指摘されています。これに対して米国の主要大学では、男女比はおおむね50:50で、むしろ女性が多数派となる場合もあります。さらに、名門女子大学が依然として強い存在感を保っていることも特徴です。
米国のリベラルアーツ教育の現場で、教育が世代間移動の強力なエンジンとなることを体感してきた私にとって、この日本のジェンダー比の現状と、それに挑む「Dialogue for Everyone」の意義は、特に強く胸に響くものでした。
📊 日本のスタートアップ経済への試金石
日本のベンチャーキャピタル市場は拡大を続けていますが、女性の参画は依然として限られています。BWAピッチコンテストのような場は構造的課題を一挙に解決するものではありませんが、女性起業家の存在を可視化し、社会に問いを投げかける重要な契機となっています。
6人のファイナリストが示したのは、インクルージョン(包摂)は単なる「社会的善」ではなく「経済的必然」であるという事実でした。人口減少が進む社会において、日本はその半分の人材を眠らせておく余裕はありません。
日本経済の試金石は、イノベーションではなくインクルージョンではないか。



