中小企業のウェルビーイング最前線
ISSUE16 Part 1:数字が映す「中小企業」の意外な姿
2025年10月2日、SIIFICウェルネスファンドは、株式会社Personal Health Tech(PHT社)への投資を発表しました。
📢 SIIFICウェルネスファンド、Personal Health Techに出資
〜大企業から中小企業の健康経営を支援し予防中心型社会へ〜 📢
私たちがこの一歩を選んだ背景には、日本の職場、とりわけ中小企業の姿があります。
長く「休めない」「人が足りない」「メンタルで辞めていく」と語られてきた中小企業。
しかし、データを紐解くと、そのイメージは必ずしも現実を正しく映してはいません。
むしろ数字は、改善と課題が複雑に交錯する「もうひとつの物語」を語りかけてきます。
そこで私たちは、このシリーズを企画しました。
第1回では、その「意外な数字」を明らかにし、
第2回では、その裏に潜む「停滞の現実」を見つめ、
そして最終回では、PHT社が切り拓く「新しい未来」を描きます。
まずは、「数字が示す意外な姿」からご一緒に見ていきましょう。
🔍 思い込みと現実のギャップ
「日本の中小企業」と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのはどのような姿でしょうか。
人手不足に悩み、休暇が取りにくく、メンタル不調で人材が離れていく - そんなイメージが根強く残っています。
しかし、数字は私たちの予想を裏切ります。
2023年(令和6年調査)の年次有給休暇取得率は全体で65.3%と過去最高を記録し、中小企業でも30~99人規模で63.7%、100~299人規模で62.8%と6割を超えています1。
さらにメンタル不調についても、連続1か月以上休業した労働者の割合は30~49人規模で0.4%、50~99人規模で0.5%、100~299人規模で0.6%と、むしろ中小規模事業場の方が、大規模事業所(1,000人以上:1.0%)より低い水準です。退職に至った割合も中小企業では0.2~0.4%程度で、全体平均(0.2%)と比べて大きな差はありません2。
加えて、日本の企業の99.7%、実数で336万者を占める中小企業こそが、この国の雇用の約7割を担っています3。
それでもなぜ、「中小企業=働きにくい」というイメージは消えないのでしょうか。
事実と認識の間に横たわるギャップをどう理解すべきなのでしょうか。
📜 日本の「予防文化」がつくった制度
日本の職域健診制度は、1911年の工場法に端を発し4、1947年の労働基準法で労働条件の基本原則が定まり5、1972年の労働安全衛生法とその下位法で事業者に年1回の定期健康診断の実施が義務化されてきました6。
1930年代には結核対策としてX線間接撮影を用いた集団検診が普及し7、戦後には“集団として守る”早期発見の実務が発達。
以後も1989年の改正(健診項目の見直し)8、1998年の改正(血糖検査取扱いの明確化など)9、2007年の改正(腹囲の追加、LDLコレステロールへの置換)10と、生活習慣病リスクの把握を強化する方向で段階的にアップデートされてきました。
この制度の特徴は「全員を対象にする」点です。欧米諸国でも健診制度はありますが、日本のように規模や業種を問わず“すべての働く人”を対象とする国はほとんど存在しません。ここには、「集団を守る」という社会的価値観、そして「予防を重視する」という文化的背景が色濃く反映されています。
⚖️ 中小企業が直面する「改善」と「停滞」
一方で、中小企業には固有の課題も残されています。
まず、産業医の配置義務は従業員50人以上の事業場に課されています。そのため、49人以下の事業場では産業医によるフォローが必ずしも行き届いていません。
次に、特別休暇制度の導入率は全体で59.9%にとどまり、規模が小さいほど低い傾向にあります。例えば30~99人規模では56.7%、100~299人規模では64.4%ですが、1,000人以上の大企業では77.4%に達しています11。
つまり、「有給休暇取得率」では改善が見られる一方、「制度整備」や「産業医アクセス」では大企業との差が依然として存在しているのです。
💡 数字が問いかける未来
この事実をどう読むか。中小企業は決して「働きにくい場」ではありません。むしろ、有給取得やメンタル不調の数字だけを見れば、大企業と同等か、それ以上に健全な面もあります。
しかし、制度や支援の整備ではまだ大きな課題が残っています。ここで求められるのは「数字に現れない課題」をどう見える化するか、そしてどう解決の糸口をつくるかです。
そのために注目されるのがPHT社の可能性です。健診データを単なる“紙の記録”にとどめず、デジタル化し、社員自身が「自分の心身の状態を理解し、生き方そのものを選択できる力=ウェルネス・リテラシー」に結びつける。そして、それを組織文化の中で共有し「ソーシャル・キャピタル」を高める。
インターンのリリーが以前の記事で述べたように、「予防医療はエグゼクティブだけの特権ではなく、すべての人の権利であるべきだ」という視点は、この流れを象徴しています。詳しくは こちらの記事 をご覧ください。
こうして初めて、我々が目指すべき「ウェルネス・エクイティ=誰もがよりよく生きられる社会」が実現に近づくのではないでしょうか。
➡️ つづく:数字の裏に潜む「停滞」へ
データは予想を裏切りました。 中小企業は思ったより健全です。しかし本当にそうでしょうか。 有給休暇は取れるようになっても、特別休暇は? 健診は「受けっぱなし」になっていないか? Part 2では、改善の裏に潜む「停滞の現実」に迫ります。
厚生労働省. (2024). 令和6年就労条件総合調査結果の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-46.html
厚生労働省. (2024). 令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
中小企業庁. (2024). 中小企業の現状と課題. 中小企業庁公式サイト. https://www.chusho.meti.go.jp/
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Ministry of Health, Labour and Welfare. (1947). Labour Standards Act (Act No. 49 of 1947). Retrieved from https://www.japaneselawtranslation.go.jp/en/laws/view/3567/en
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公衆衛生. (1989). 「労働安全衛生規則等の一部改正について」『公衆衛生』, 53(12).
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Ministry of Health, Labour and Welfare. (2007). Outline of amendment to Industrial Safety and Health Regulations (July 2007). Retrieved from https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000u4ub.html
厚生労働省. (2024). 令和6年就労条件総合調査結果の概況.
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