リリーからの手紙-日本の予防健診を通じて見えたこと
ISSUE13|ウェルネス・リテラシーとソーシャル・キャピタルをめぐる気づき
SIIFICからのメッセージ
SIIFICにとってウェルネスとは、身体的な健康だけでなく、人が自分をいたわり、周囲と支え合うことで生まれる、包括的な状態でもあると感じています。今回ご紹介するのは、学生インターンのひとり、リリー・トーマスが日本で体験した「予防健診」に関する振り返りです。
彼女にとって健診は、単なる健康診断にとどまらず、ウェルネス・リテラシーを深め、SIIFICのメンバーからの温かなサポートを通じてソーシャル・キャピタルの力を実感する機会となりました。リリーの手紙は、職場での小さな思いやりが、個人の成長と仲間と分かち合うウェルビーイングを育んでいくことを示しています。そしてその積み重ねが、「誰もがよりよく生きられる社会」へとつながっていくのだと思います。
A LETTER FROM LILY THOMAS
親愛なる読者の皆さまへ
SIIFICのインターンとして私は予防健診を受けるという貴重な機会をいただきました。健診の内容は驚くほど包括的で、身体計測、視力検査、聴力検査、血液検査、胸部X線、胸部・腹部CT、心電図検査など多岐にわたっていました。
21歳の私が、これほど徹底した健診を受けられるとは思ってもみなかったため、最初に抱いたのは感謝と驚きでした。三浦さんと梅田さんから温かいご提案をいただいたとき、SIIFICには支え合う文化があるのだと実感しました。米国や英国でインターンがこのような価値ある福利厚生を受けるのを聞いたことがなかったので、文化的にも新鮮な驚きでした。加えて、梅田さん自身が健診について話してくださったこともあり、日本の「共に体験する儀式」として自然に受け入れられるように感じました。
💡日本のおける健診の背景 🇯🇵
日本では、定期健康診断は単に一般的であるだけでなく、法律によって義務づけられています。労働安全衛生法に基づき、事業者は常時雇用する従業員に対して年1回の健診を実施し、その費用を負担しなければなりません。12さらに、雇入れ時や有害業務への配置転換時、休職からの復帰時などには追加の健診が必要とされる場合もあります。3
健診の内容は年齢によって異なり、特に40歳以上では生活習慣病リスクを把握するための検査が加えられるのが一般的です。4詳細な血液検査や生活習慣に関する問診を含むこうした包括的な健診は、日本社会の「精緻さ」や「仕組みとしての整合性」をよく体現していると感じました。5
一方で、アメリカでは予防医療への重視は低く、「医療そのものが病にかかっており、その病は利益だ」と揶揄されることさえあります。6健診は職場文化としての儀式ではなく、むしろ4.5兆ドル規模の利益主導型医療産業の一部を成しています。7そこでは、従業員向け保険パッケージの複雑化、メディケアやメディケイドを利用した過剰な医療処置、そして健康格差を生み出す構造的な要因が問題とされています。
さらに、アメリカの医療制度は極めて複雑で、保険会社や医師、政府といった多様なステークホルダーが関与しているものの、その利害が必ずしも一致するわけではありません。州ごとの法制度の違いによっては、逆選択やモラルハザードといった課題が、実際の医療提供の現場で顕在化することもあります。
今回の予防健診についてはSIIFICの松﨑さんが、言語や快適さに配慮してすべて手配してくださいました。彼女が東京ミッドタウンクリニックを選んだ理由は以下の通りです。
💬 「英語でサービスを受けられるクリニックを探しました。東京ミッドタウンクリニックは検査結果も英語で出してくれるのが決め手でした。料金も日本人と同じで英語対応に追加料金もかかりません。費用は約545ドルで、結果はオンラインでいつでも確認できます。完全にオンライン対応しているのはここだけでしたし、SIIFICから近いのも利点でした。」
東京ミッドタウンクリニックについて
リリーが健診を受けた場をご理解いただくため、東京ミッドタウンクリニックの概要をご紹介いたします。
東京ミッドタウンクリニック
六本木に位置する同クリニックは、包括的な予防健診と英語対応で広く知られています。日本人はもとより海外の受診者にも対応しており、検査結果をオンラインで確認できるなど、快適で利便性の高い環境を提供しています。健康診断
視力・聴力・血液検査・画像診断などを体系的にカバーした健診プログラムを実施しており、日本が重視する「早期発見」と「予防医療」の考え方を体現しています。
👉 詳しくはこちらオプションメニュー
MRI、マンモグラフィー、心血管系検査、遺伝子解析など、個々のニーズに応じて追加できるオプションも用意されています。
👉 詳しくはこちら
健診に臨むとき、私は前向きで、自分の健康を自分で守るという主体性を持てたことに少し誇らしささえ感じていました。アメリカやイギリスでは予防医療が軽視されがちで、治療は後手に回り、待機が長く、利益優先であることが多いため、この「予防に焦点を当てる姿勢」がとても新鮮でありがたく思えたのです。
けれども、日が近づくにつれて不安の影が差してきました。知らない場所で、見知らぬ人たちに体を細かく測られ、検査されることを思うと緊張が高まりました。これほど包括的な検査を受けるのは初めてで、好奇心と同時に恐怖も感じました。仕事を休んで健診を受けられること自体はありがたいことであり、柔軟に対応してくれる職場環境に恵まれていると実感しましたが、一方で、義務化されていなければこうした「自分の健康を守る責任」は簡単に後回しにされてしまうのだろう、とも考えさせられました。実際、検査の規模や結果がもたらすかもしれない影響を想像すると、受けることをためらう気持ちさえ湧いてきたのです。
この経験はまた、最後に受けた大学入学前の健康関連検査を思い出させました。イギリスでは非常に稀な病気ですが、当時私の大学ではすべての留学生に鎌状赤血球症の検査が義務化されていました。採血のあと、廊下で気を失ったあの出来事は、いまでも鮮明に覚えています。そうした記憶が、今回の特権的な体験にも影を落とし、これまでに経験したより良い医療体験への感謝を改めて感じさせました。同時に、コロナ禍での物資不足や重い病気、さらには戦争といった過酷な状況を生き抜いてきた人々にとっては、健診の場がトラウマや「白衣症候群」、PTSDを呼び起こすこともあるのだろうと想像せずにはいられませんでした。
🌱🏙️ 都会の中のウェルネス
六本木の複雑な街並みを抜けて健診に向かう途中、未来的な高層ビル群と、そこで働く人々の整然とした動きに圧倒されました。東京ミッドタウン全体は、オフィス、クリニック、ショップ、レストランがすべて至近距離に集まり、まるでビジネスマンの利便性とウェルネスのために設計されたひとつのエコシステムのように感じられました。
クリニックに到着すると、英語で温かく迎えられ、検査着と「4」と記されたバッジを手渡されました。バッジの色は健診コースによって異なり、エグゼクティブは青、一般は茶色でした。検査着に袖を通した瞬間、まるでウェルネススパに足を踏み入れたかのような感覚に包まれました。
待合スペースからは、ガラスのタワーが並ぶ都会のジャングルを見下ろすことができ、そこには絶え間ない人々の動きと活気、そして富が広がっていました。私より何十年も年上のエグゼクティブたちと同じ検査着を着て並び、同じ東京の景色を眺めながら静かに息を整えました。その瞬間だけは、立場や年齢の違いを越え、同じ目線に立っているように感じられたのです。
数分おきに名前が呼ばれ、次の検査へと進みます。身体測定のようなシンプルなものからCTスキャンといった高度な検査まで、流れるようにサーキットを回るように進んでいきました。最後に食事券をいただき、ミッドタウンで美味しいとんかつ定食を楽しんでから職場に戻りました。
🤔 振り返り
およそ1か月後に健診結果が届きました。アメリカでの経験と比べると長く感じました。その間、SIIFICでの仕事の傍ら、心のどこかでずっと結果を気にしていました。例えば、遠藤先生のインタビューやC-HAS+の皆さんとの出会いを通じて、まさにこの検査で発見し得る病気の治療に挑むスタートアップに触れるたび、自分の体験と重ね合わせて考えさせられました。
これほど丁寧で専門性の高い健診は初めてで、結果はオンラインで届けられ、各指標ごとにAからDまでの評価がつけられていました。ごく小さな異常でも指摘される慎重さに安心する一方、少し事務的で不安を覚える瞬間もありました。思わずGoogleで検索し、結論を急がないように情報源の信頼性を意識しながら理解しようとした自分がいました。
アメリカの医療産業が利益構造によって大きく動かされていることを学んだ後だったので、勧められる検査や対応の背後にあるインセンティブを考えざるを得ませんでした。そのため、先日フォローアップの英文メールで今後の計画について質問された時も、少し慎重になりました。一方で、ここまで気を配ってくれる姿勢に感謝の気持ちも覚えました。
この経験を通じて私は深い感謝の思いを頂きました。健診は、自分の健康についてこれまで気づかなかったことを知る機会となり、将来に備えるのではなく「今から」より健康的な生活習慣を身につけたいと強く思わせてくれました。同時に、このような包括的な予防医療にアクセスできること、休暇を取れる柔軟性、会社や家族からの支えは、誰もが得られるものではない - 特にシングルマザーなど多くの働く人々にとっては簡単に手の届かない贅沢であることも痛感しました。
私にとって初めての予防健診は、ひとつの個人的な節目であると同時に、医療における文化の違いを映し出す窓でもありました。そこには感謝と新しい視点、そして自分の健康に対する新たな責任感が残りました。
お読みいただき、ありがとうございます。
温かい気持ちを込めて、
リリー
"Japanese Annual Health Check," Japan Dev, 2023. [Online]. Available: https://japan-dev.com/blog/japanese-annual-health-check#what-are-health-checkups-like-in-japan. [Accessed Sept. 5, 2025].
"Comparison of Medical Checkups in Japan and USA," Central Medical Club, 2022. [Online]. Available: https://centralmedicalclub.com/column/usa-ja-medical-checkup. [Accessed Sept. 5, 2025].
Ibid.
Ibid.
Japan Dev, "Japanese Annual Health Check," 2023. [Online]. [Accessed Sept. 5, 2025].
Hightower Jim, “Health Care Is Sick — And Profit Is the Disease” Inequality.org, February 23, 2023. [Online]. Available: https://inequality.org/article/health-care-profit/
PwC Health Research Institute, "Next in health services 2025: Secure your future with resilience and reinvention," PwC, 2024. [Online]. Available: https://www.pwc.com/us/en/industries/health-industries/library/healthcare-trends.html. [Accessed Sept. 5, 2025].




